こんにちは!
管理部の金杉です。
もう秋ですね。
冷房がいらない季節は、肥満気味の私の場合大変助かります。
怪談シーズンも終わってしまいましたが、もう一話だけゾクッとするお話をしたいと思います。
私は昔、某不動産会社で住宅用地の仕入れを担当しておりました。
毎月多くの土地を買い取り、分譲住宅を販売してきました。
その月は目標の区画数が足りておらず、必死に買えそうな土地はないかと業者へ電話をかけていました。
それを見ていた同僚Aが資料を片手に私に声をかけてきました。
「刑事(デカ)さん。今、俺さぁ、栃木の案件で忙しいから良かったらこの物件やってもらえないかな。」
※デカは私のあだ名です。
同僚Aと私は社内でも有名な犬猿の仲でした。
あれっと思いましたがそんなことは言っていられなかったので
素直に資料を受け取ると物件調査に出かけました。
駅からも徒歩圏内で、戸建用地として3区画くらいが計画できる広さでした。
現在古いアパートが立っていますが売主の費用負担で解体して更地での引き渡しになる予定とのこと。
同僚Aとは付き合いの長い業者からの情報なので、なるべくいい金額で早めに返事をしてあげたいので、
今回は私との関係は休戦することにして、頼むことにしたと同僚Aは不細工な顔で説明してきました。
私が調査を行う際に最初にやることは、近隣住民にヒアリングを行うことでした。
当時はまだ「大島てる」という有名なサイトがまだ一般的ではなかったのです。
現地に到着し、物件前に車を駐車しました。
道路側を除く3方向に少し高めの建物があるので、日当たりが悪いようでした。
敷地内に建っているアパートは周囲を鉄パイプの足場で囲まれて、
解体時の建材等の飛散防止用に防護シートで覆われていました。
土地周囲の境界杭を確認した後、さっそく近隣の住人に聞き込みを行いました。
特に変わった事件や事故ななかったようでした。
しかし、なんとなく違和感のようなものを感じていました。
通常突然不動産業者を名乗る者から、事件や事故などはなかったのかと聞かれても、
愛想よく答えてくれる人ばかりではないのですが、この周辺の住人はどなたも素直に答えてくれました。
物件の向かい側の立派な家の奥さんとふと視線があったので、話しかけてみると、
スーパーも近いしこの辺りはとても住みやすい場所なんだとにこやかな笑顔で答えてくれました。
役所調査を手短に済ませて帰社したらすぐに業者に買い付けを送ろうと考えました。
私はアパート解体のために建物周りに設置された足場とシートをよけて、建物内に入っていきました。
当時を思い返してみると建物は解体してしまうため建物内をみる必要は無かったのですが、
私はなぜか吸い寄せられるように建物内に入っていったような記憶があります。
「………。」
建物の中に入った途端、全身にのしかかってくるような重苦しい空気を感じました。
シートで囲まれていることもありますが日当たりが悪く、
かび臭くなんとなく焦げたような臭いも漂っています。
「あっ………。いる」
その時の私は、何かを確かに感じたのです。
建物の外へ飛び出すと、向かい側の家のインターホンを押しました。
おそらく居るはずですが、応答がありません。
突然パラパラと雨が降ってきたので、もうあきらめて帰ろうかと思っていると、
さっきの奥さんがドアを細く開けてこちらを覗いています。
私はドアに近づくと「あの、あっちの建物で何か………。ありましたよね?」
その質問に彼女の表情が強張りました。そして小さな声で話し始めました。
「このアパートの一番奥の部屋でね。数年前に首吊り自殺があったのよ。
それからしばらくは空室になっていてね。去年にやっとその部屋に新しい人が引っ越してきたんだけど。」
そこで彼女は言葉を切って、黙りました。
「新しい人に何かあったんですか?」
私が話を促すと、一呼吸おいて彼女が言いました。
「頭からね、灯油をかぶって焼身自殺したのよ。あの夜はね、消防署とか警察とかが来て大騒ぎだったわよ。」
思わず振りかえってアパートを見ながら、しばらく私はドアの前で言葉を失ってしまいました。
礼を言って車に戻ると、車内で物件の方に向かって思わず手を合わせてしまいました。
冷静に考えると今回立て続けに自殺があった理由は、
霊のせいではなく当然最初の自殺で家賃が極端に下がり、
生活苦を抱え、安い家賃を望む方が入居したことで偶然起きた事件だろうと考えています。
さらに不動産屋として多くの物件を見てきて、持論を説明させていただくと、
日当たりや湿気、匂いなどは人の精神に影響を及ぼすものと考えます。
ここに居てはいけない、住んでは体に良くないぞと本能的に体が反応するんです。
昔の人は本能的に知っていたから風水を取り入れることで、
結果的に日当たりや風通しのよい部屋になったり、
神棚にお供えをすることで、日本酒の良い香りや、
盛塩が湿気を吸うことによる快適な住空間を作ったのだろうと。
例の物件は日当たり、匂い、湿気が最悪でした。
住んでいたら自分も気持ちが病んでしまうと思います。
実際現地を確認したときあそこは隣の飲食店が入ったビルの厨房から流れてきた油の匂いが、
建物で囲まれた風通しの悪い空間に淀んで溜まっているのがわかりました。
と頭では理解していても、真夜中にあの現場に一人で行けと言われたら絶対に無理です。
なぜなら確かにあの時、部屋の奥に何かがいたんですから。
亡くなったお二方にはご冥福をお祈りいたします。